二代目助手席日記・その6(1周年記念日編)


注:この物語はフィクションです。登場人物が実在の人物に酷似していたとしても、ただの偶然の一致なので、詮索はしないでください。

Iさんから 「付き合ってください」 と言われたのは、初めて二人だけで採集に行った2010年8月14日、兵庫県A島でのことでした。以来、デートを重ねてきたわけですけども。
緒事情により、私達のデートは「日帰り」が大前提なので、採集だけでタイムオーバーとなってしまうのが普通です。ですが、A島遠征は距離があるため、「日帰り」と言いながらも、「前日(13日)夜に出発して翌々日(15日)明け方までに帰宅」が何となく許容されています。つまり、いつもよりずっとゆっくり過ごすことができるのです。
「付き合い始めて1年。思い出のA島。しかもゆっくりできる」 となれば、記念日に相応しい進展(!)があるのかも。心に残る素敵な1日にしましょうね。と、Iさんも私も、何となくそんな思いでいたはずなのです。少なくても、私がIさんの車に乗り込むまでは。

≪出発≫
さて、13日夜。Iさんの車に乗り込みました。でも、なんだか、車の様子が、ちょっと変。これから採集に行く、と言うより、採集に行ってきた、と言う感じ。
私:「も、もしかして、まさかとは思うけど、今日、どこかで採集してきたの?」
Iさん:「今日の午前中は暇でしたから、ちょっと伊豆へ行って来たのです。」
ぬぅわにぃ?! (標準語に訳すと「何?」)
実は、当初はこのA島行き、当初は8月12日(土)夜に出発の予定だったのです。ところが、Iさんは車で福井〜福岡への出張で12日の朝に帰宅するとのこと。自宅で仮眠した後A島に向かうつもりでいたそうですが、それはいくらなんでも無茶。 「しっかり休んで疲れを取ってから出かけましょうと」 と予定を変更して、13日夜の出発にしたのです。
それなのに、なんで、伊豆に行ってるの?!ちゃんと休んでなきゃ、ダメじゃないの!
普通、福岡から車で帰って来たばかりなのに、これから兵庫まで行く日の出発前に、伊豆に寄って採集しようだなんて、考える人がいますか?何と言う信じられないことをする人なんでしょう!(泣)
……と、この時点で、すでに、なんとな〜く暗雲が立ち込めていたのかもしれません。

≪A島採集≫
夜の高速を、ひたすら西を目指して走ります。1年前に同じ道を走った時には、はじめての二人だけの採集だったので、かなり緊張して助手席に座っていたものですが……今回は、すっかりリラックス。交通渋滞が心配でしたが、概ね順調に車は流れており、予定通りにA島に到着です。
で、朝まで車の中で仮眠を取ります。
年中採集に行って車の中で眠ることに慣れているIさんと違って、私は、なかなか寝付けません。採集に行く時車中泊するのは、当然のことなんでしょうか?Iさんによると、初代助手席さんは車の中でもぐっすり眠っていたようなので、私も見習わなければならないところなのかもしれません(対抗意識・笑)。

朝を迎え、いよいよ採集です。
この場所では、ネブトとヒラタが採れます。
(*噂ではマメも採れるらしいのですが、Iさんはまだ採集したことがないとのことです。)

まず、ネブト採集です。

ネブト♂ネブト♂

1年前と同じ道を辿り、同じポイントを見て、クヌギの樹液でネブトを採集。でも、今年は、去年あれだけいくらでも採れたネブトがいない……。
私:「Iさんが採り尽くしてしまったため、A島のネブトが絶滅したんじゃないの?」
Iさん:「そんなことないですよ。きっと、ライバルがいるんですよ。」
何とか、数頭みつけたものの、採集できたのは全部♂。去年もそうでしたけど、この時期には、♀は姿を消しているようです。ブリードが専門の私にとっては、♀が採れないとテンションが下がります。
一方、ヒラタの方は、去年よりもたくさん採れた印象を受けました。他の採集者が来て、ネブトだけ狙って採って行ったと言うのも考えにくいのですが……。ネブトは簡単にみつけられるけど、ヒラタは、Iさんほどの採集歴がなければ見つけられないってことなんでしょう(そう言うことにしといてください)。

ところで、この島の特徴ですが……。
@少なくてもIさんの採集ポイント付近は、やけに気温が高い。
熱中症予防のため、Iさんは4リットルもの水分をリュックに入れていたそうで、しかも採集終了までに飲み切ったと言うのですから驚きです。それくらい暑いので、Iさんは、この島で採集すると、毎年とても体力を消耗します。 「少し休みましょう」 とバテてるIさんの隣で、いつになくケロッとしている私。きっと、この島には、Iさんの体力を消耗させる何かがあるに違いない…と、思います。私にとってはパワースポットなんですけどね。
Aアブと蚊が異常に多い。

蚊の多さは異常です。しかも、刺されると、普通でない腫れ方をします。虫よけスプレーが必需品なのは当然ですが、虫よけスプレー如きで怯むようなヤワな蚊ではありません。さらに、蚊よりも数段攻撃的なアブがたくさんいます。去年、Iさんからの 「告白」 は、アブに付きまとわれながらの非常にロマンチックなものでした。なので、告白の場としては、まったくお勧めできません(こんな所で告白しようって人はいないだろうけど…笑)。
Iさんは、アブよけ効果があると言うハッカ油を持参していて、それを私にも使わせてくれたのですが……首筋にスプレーした途端に、火がついたような痛みが走ったのです。あまりの痛みに耐えられず、しかし、近くに水がありませんでしたので、飲用に持参した麦茶をタオルに含ませ、それで首についたハッカ油を拭き取ると言うサバイバルな体験をしました。ハッカ油には、ある程度のアブ忌避作用はあるようですが、決して原液で使ってはいけません。適度に希釈して使用するようにしましょう。

さて、採集に話を戻します。
ヒラタですが、これは、かなりいました。去年も複数採れているので、生息数は多いと思われます。一般的に♀は採りにくいものですが、この場所の♀は特に採りにくく、実は去年も採集できたのは♂だけでした。
クヌギのウロの中に入るヒラタを「ひっかき棒」を使って取り出すと言うのは基本的な採集方法ではありますが、これは、慣れないと難しいものです。それに、このポイントのヒラタ♂は昨年採集できているので、私には「何が何でも採ってやるぞ!」と言う気合が足りません。これじゃ、採れるはずがありませんよね。
私:「Iさん、私には、無理。」
すると、仕方なく、急な斜面を登ってIさんがやってきて、ウロからさらっとヒラタを取り出してくれます。う〜む。確かに、非常に高度なテクニックだな、これは。採集以外に使いようがないので、無駄な技かもしれないけど。
と言う訳で、私は気合の入りきらない採集を続けていたのですが……ふと見れば、クヌギの幹に♀がいるではありませんか。ちょっと大きめで、コクワではない感じです。
私:「Iさん、あの♀、もしかしたらオオ?!」

ヒラタ♀ヒラタ♀

Iさん:「いや、ヒラタ♀ですね。」
うわ〜い、ヒラタ♀だぁ! ここのヒラタ♀は欲しかったんですよ。何しろ、Iさんと私にとっては思い出の場所なのですから。大事に飼育しなくっちゃ…♪
でも……今考えてみると、この日、私が自分でみつけた虫って、もしかしたらこの♀1頭だけだったかもしれません。^^;

と言うようなことが何度かあった末に、そろそろ引きあげましょうと言う時になって、Iさんは急斜面の上に、非常に気になるクヌギを見つけてしまったようです。
Iさん:「Kちゃん、あの木、見て来てくれませんか?」
……。あの愛らしいつぶらな瞳でお願いされてしまうと、イヤとは言えないですよね。^^;
斜面をよじ登り、クヌギを見ると、とっても良い感じのウロがあります。樹液も溢れだしています。ウロの中には……♪
で、苦手なかき出し棒でチャレンジしてみるものの、私なんぞに採れっこありません。
私:「いるけど、採れないよぉ……。」
斜面の下で私の動きを見ていたIさんは、とうとう我慢できなくなったようです。普通に考えたら右半身が不自由なIさんには絶対に登れないはずの斜面なのですけど、回り道をしながら、とうとうその木の所までやってきました。そして、丹念にウロを調べてヒラタとコクワを取り出し、さらに別のウロに潜んでいた大きなヒラタを発見。
Iさん:「凄く大きいヒラタです。何とか採れませんか?」
私:「ねぇ、ウロにハッカ油をスプレーしたら、出てくるんじゃない?」
やってみたものの、効果はなし。う〜む。
と言うので、私が再度チャレンジするも、ヒラタはウロの中で必死の抵抗をしています。しかも、ここは、蚊の数が半端ではないのです。私がヒラタと必死の格闘を続ける間も、容赦なく私の顔面を蚊の大群が襲撃しているのです。ほんの数分の間に、顔じゅう30か所以上を蚊に刺されてしまいました。痒いし痛いし、それに、顔なんですよ。私だって一応は女性。顔がこんなにボコボコに腫れてしまうのに、まだ採らないといけないんですか?ねぇ、Iさん、ヒラタ♂はもういっぱい採ったのだし、これは諦めようよ。ね。お願い。
Iさん:「でも、ギネス級の大きさなんですよ。」
……。(T_T) (*本当に泣きました)
結局、最後には、Iさんが自分でかき出し棒を使ってヒラタ♂を取り出したのですが……取り出した♂は……えっ?65o? こんだけ苦労させて、どこがギネスなのっ?!(怒)

≪日帰り温泉・ゆーぷる≫
と、ふつふつと湧き起こる怒りをこらえつつ、ともかくA島での採集は終了。まずは汗を流しましょう。近くの日帰り温泉施設「ゆーぷる」に向かいます。

ゆーぷるゆーぷる

実は、私が今回のA島行きに喜んで同行した理由は、この温泉にあります。「潮崎温泉」を利用しているようですが、ここは、私がこれまで行った中で、泉質の良さは1・2を争温泉だと思います。お近くに行かれた方は、ぜひ、お立ち寄りください。
旧盆休み中なので大混雑。でも、いい湯だな。いやぁ、極楽・極楽……。
施設には、簡単な食事ができるスペースもあります。温泉の後は、何か冷たい物でも飲みましょうか……。と、飲食スペースに行き、お財布を出そうとしたら……ないっ!!
そっか、混雑してて慌ただしかったし、お財布を、脱衣所のロッカーに置き忘れて来ちゃったのかも?! もうなくなってるかも?! ど、どうしよう……。
と、大慌てで脱衣所に飛び込むと……ん?オジサンばっかり??な、なんで???
一瞬状況が呑み込めなかったのですが……数秒後、やっと事態が理解できました。私は、男湯に飛び込んでしまったのだっ!
私:「ぎゃ〜〜〜、ごめんなさい〜〜〜間違えました〜〜〜〜。」
「遠慮せんでいいで〜。一緒に入ろうや〜〜〜。」
……関西人のノリですな。
言いようのない虚脱感と恥ずかしさを引きずりつつも、Iさんの待つ飲食コーナーに戻り、ノンアルコールビールと淡路島タコのから揚げをいただきました。普段、Iさんと採集に行っても、その土地の名物なんて食べたことがなかったですからね。今回はタコが食べられたので、ちょっとした進歩ですよね。ノンアルコールビールもタコも、とっても美味しかったです。
(注:後日この同じ銘柄のノンアルコールビールを飲んでみたのですが、全然美味しくなかったです。採集と温泉の後だったから、特に美味しく感じたのでしょうね)

≪兵庫県B市採集≫
温泉の後は……私は、そのまま帰路につくのかと思っていたのですが、Iさんは、どうしてもB市に足を伸ばしたいと言うのです。
Iさん:「一昨日、仕事で福岡からの帰りに、B市のポイントにヒラタがいるのは確認済です。その時は脚立がなくて採れませんでした。絶対にそこにヒラタがいるので、寄ってもいいですか?」
これだけ採れば、もう充分じゃないですか?どうして全部採らないと気が済まないのでしょう? このあたり、私には理解不能なところなのですが……私がダメと言っても、絶対に納得しないだろうな。(T_T)
私:「せっかく温泉に入ってキレイな体になったのに、また汗をかくのはイヤ。それに、かなり疲れてしまったので、私は車で待ってるけど、それでもいいなら。」
Iさんは、嬉々として、B市に車を走らせます。私が、ちょっとウトウトしている間に、ポイントに到着。到着するなり、Iさん、何やらごそごそしています(半分夢の中で聞いていました)。どうやら、予備タンクに入っていたガソリンを給油している様子。しばらく後、車のトランクをバタンと閉めて、森の中に消えて行きました。
閉め切られた車の中には……半分眠った私が一人。そして、予備タンクと給油用のホース。ガソリンと言うのは、非常に発揮性の高い物質なので、車中には気化したガソリンが充満し、殆ど毒ビン状態。
ゲホッ!!おい、Iさん、私を〆るつもりなのかい?!(怒)

耐え切れずに、車のドアを開けました。場所は、車も人も通らない真っ暗な山の中。お化けがコワイ以上に、蚊の大群が襲ってくるんですよ。A島で、顔面を蚊の大群に襲撃された私としては、もう、勘弁して欲しい……。
暗闇に消えたIさんは、なかなか戻ってきません。携帯で連絡しようにも、圏外で通話もできません。 Iさんが戻ってきたのは、1時間以上も過ぎてからのことでした。(T_T)

≪帰路≫
あとは、ひたすら東に向かうだけです。
そう言えば書き忘れましたが、途中のサービスエリアで、「明石焼き」を買って、Iさんと一緒に食べました。私は明石焼きが大好きなので絶対に食べよう!って思っていたのです。Iさんの採集に振り回されるだけではなく、自己主張もしないとねっ!(女性って、こうしてだんだんと強くなっていくのだな・笑)。
東へ向かって間もなく……Iさんがつぶやきました。
Iさん:「眠い……。もう、ダメ……。」
えっ?もう? でも、事故を起こされては困るので、私が運転するしかないかな? 1〜2時間くらいなら、私が運転するのも当然です。遠征なんだもの、お互い助け合わなくっちゃ。
でも……振り返ってみると、去年檜枝岐に行った時も、今年4月に和歌山まで行った時も、帰り道は私が運転してたような……イヤ〜な予感……。

Iさんは2時間過ぎても眠ったままなので、温厚な私(ウソだ!って?)と言えども、段々と腹が立って来ました。
Iさんは、自分がやりたい採集はどんな無茶をしてもやってしまうけど、その後は眠ってしまう。帰路は、私が、車を運転することになる。Iさんは、それが当然だと思っているようです。きっと、初代助手席さんは、そんな時には黙って運転を代わっていたのでしょうね。
でも、私は、初代助手席さんではありません。二代目助手席は、意地悪なのです。
Iさん、私だって、眠たいのだぞ。だって、15日に休むためには仕事を片付けなくちゃならなかったし、そして、母にも気持ちよく送りだして貰えるようにと、通常の家事も、お盆前の草取りも窓拭きも親戚へのご挨拶も済ませたので、寝不足が続いていたのですよ。それでもA島に遠征をしたのは、Iさんとステキな思い出を作りたかったから。うんと楽しみにしてたのに……。
そもそも、出発の日に伊豆に行くのが間違いだと思う。何のために出発日を1日遅らせたと思ってるの?私が15日の明け方までに帰らなくてはならないことは、Iさんもご存知でしょ?それなのに、B市に足を伸ばすなんて、無謀なのです。いつも、Iさんはクワガタのことばかりを見ていて、私のことなんて考えてくれないじゃないの……。クワガタへの思いのほんの一部でいい。私に向けて欲しいのに……。
そんなことを思いつつ、眠気と戦いながら高速道路を走っていると、鮮やかなネオンライトが目に入ってきます。明るい時間には気がつきませんでしたが、恋人達のための宿泊施設(?!)って、結構たくさんあるものなんですね。
ああ、私もあそこに行きたい!!!
心の底からそう思いました。この発言は、決してロマンスを求めてのことではありません。眠くて眠くてもうどうしようもなくて、 「あの場所のベットで2時間くらい熟睡できたらどんなに楽だろう!!」 って思っただけなんですけど。^^;

空が明るくなり始めたころ、やっとIさんがお目覚めになられました。が、その頃には、私は完全に屈折して、すっかり無口になっていました。
Iさん:「何か、怒らせるようなことをしましたか?」
私:「べつに〜。」(と、エリカ様の真似をしてみる)

(この後のやり取りは、緒事情によりカット。お付き合いを始めて以来、最大規模のバトルが繰り広げられたことは間違いありません)

ともかく、15日朝には無事に帰宅。
ヒラタもネブトも採れましたし、タコのから揚げも明石焼きも食べることが出来ましたし、温泉にも入ることができました。遠征の目的はすべて果たしたはずなのに、心のすみっこにちょっとだけさみしさが残っているような気もします。やっぱり、私は、初代助手席さんには、かなわないのかな?
お付き合いを始めて1年。記念すべきA島行きだったのですけどねぇ。あはは。

と言う訳で、今後も二代目助手席日記は続きます。いつか、二代目助手席日記に書けない「進展」があった時には、ハッピーエンドでこのラブストーリーは完結となることでしょう。
……この物語、永遠に続いたりして。

で、Iさ〜ん、次はどこに行きましょうか?^^ (結局、全然懲りてないってことですね)



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2011.09.24