¶はじめに 現在我が国には「植物防疫法」なる法律があって、外国からの昆虫等の輸入を制限しています。 主として日本の農産物や植物に被害が発生するのを防止するためです。 従ってたとえば明らかに肉食であるサソリ、毒グモ等の輸入はOKですが、我が愛しのくわがた達は一部の種を除いて現在輸入不可となっています。 理由は「詳しい生態が未知」のためだそうです。逃げ出せば人命にかかわるようなサソリやワニやトラがペットとして輸入されているのに、「推定害虫」の濡れ衣?を着せられたくわがたが輸入禁止という現実に理不尽さを感じ、今回解禁のお願いに行ってきた次第です。 ¶横浜植物防疫所 「植物防疫法」に基づき輸入動物を審査、管理しているところは農林水産省の植物防疫所というところです。さいわい輸入審査のセクションが横浜にあり、私の自宅から至近ということもあり、1997年12月4日に横浜植物防疫所に行って係の方と話をしてきました。 まず、現在輸入許可されているくわがたはノコギリクワガタとアカアシクワガタの2種です。これについては学名が基本だそうです。 したがってノコギリは(prosopocoilus inclinatus)のみ、アカアシは(Dorcus rubrofemoratus)のみとなっているそうです。 というわけで、現在のところ外産オオクワ・ヒラタはもちろんのことビソン・ギラファなども一切ダメということでした。 輸入許可昆虫リスト(和名・学名併記)を私の目で盗み見して確認しましたので間違いありません。 また、「現在の解禁種を書面にて発行してくれ」と頼んだところ、「そういったものは発行していない。ある種に関して照会があればYESかNOかの返事はする。」ということでした。 また国内に100カ所ほどある防疫所・出張所には「ここにある解禁リストと全く同じものが配布されているので場所によって判断が異なることはない」そうです。 そのリストをコピーさせてくれと頼んだところ、「公開文書ではないのでダメ」と断られました。 解禁種を追加するには、まず「食性などが書かれていたり、植物に影響がないことを記した文献が必要」であり、「これを添えて書面(任意形式)にて申請せよ」ということでした。 文献の発行元は「私的機関・出版社でもよいが、公的機関ならなおよい。」そうです。 ただし、「幼虫の同定は困難を極めるため成虫でなければ許可されないだろう。」とは、さきの係官の方の私見です。 そこで、ある程度ガイドラインが見えてきたので申請の準備に入りました。 ¶戦略 どのくわがたを申請するかはみなさんからのご意見を待とうと思っていましたが、具体的なご提案もなかったので、独断でオオクワ、ヒラタ、ミヤマ、ノコギリ系とポピュラーなところからもっていくことにしました。 なぜなら詳しい生態や食性の書かれた資料をむし社などに行きお尋ねしたのですが、あいにく成果無しだったため、今回は外国特有種はあきらめ、国内種と同一または近縁種にターゲットを絞ることにしたのです。 そこで前述したとおり現在輸入OKの種はノコギリとアカアシです。 本来なら外国に産する種を輸入するためには、当該種がその食性等において、日本国内における農作物等の植物全般に無害であることの証明が必要ですが、外国に産する上記2種は、日本国内でもごく普通に生息している種であり、当該種の日本産と外国産とが同一である以上、当然日本国内におけるその詳しい生態が既知であるため、輸入許可されているものです。 この解釈を応用し、以下に示す種もまた、日本国内における種と同一、若しくはその近縁種(なかには遠いのもありますが)という理由で申請戦略をすることにしました。 ¶分類 この申請に際し、申請種を以下の三群に分類しました。 第一群 [和名・学名(属名・種名とも)が全く同一である群] 第二群 [学名(属名・種名とも)が同一で、形態等が非常に近似している群] 第三群 [学名(属名のみ)が同一で、形態等が非常に近似している群] なぜ分類したかというと、一括申請するより全面敗訴の確率が低いのではと考えたのです。 すなわち、第二群や第三群を捨て駒にすることで、第一群の正当性を際だたせることが狙いでした。 もちろん第二群と第三群も解禁して欲しいのですが、初申請ということもあり、なんとか全敗だけは避けて、とにかく解禁実績を作りたかったのです。 第一群 [和名・学名(属名・種名とも)が全く同一である群]
第二群 [学名(属名・種名とも)が同一で、形態等が非常に近似している群]
第三群 [学名(属名のみ)が同一で、形態等が非常に近似している群]
このリストとくわ本を引っ提げ、いざ横浜植物防疫所へ。 ¶提出 1998年1月30日午後。原付にまたがり農林水産省横浜植物防疫所に行きました。 申請リストの他に、申請根拠、申請者連絡先、参考文献(世界くわ大図鑑、月刊むし、虫研書籍など20数冊)などを添えて提出しました。 係官:「結果が出るまで時間がかかることをご承知おき下さい。」 あい:「2年も3年もかかるんですか?」 係 :「いや、そんなにはかからないです」 あ :「じゃ数ヶ月ぐらいですか?」 係 :「そんなところですね」 あ :「結果は?」 係 :「すぐ電話でお知らせします」 あ :「よろしくお願いします」 と言って合同庁舎をあとにしました。 ¶電話 1998年3月5日午前9時 係官:「こちらは農林水産省の◯◯ですが」 あい:「はい、なにか?(ドキドキドキドキ)」 係 :「先日お預かりした参考文献を郵パックでお送りしました」 あ :「はい、・・・それだけですか?」 係 :「それだけです」 あ :「結果は?」 係 :「まだです」 あ :「あ、そうですか」 係 :「結果が出たらまたお電話しますね」 あ :「あ、はい、よろしくお願いします」 てやんでえ、ドキドキさせやがって。 ¶おわりに 本文中で「申請」という表記を用いましたが、正しくは「照会」です。 「申請」とはすでに輸入許可が下りているものを輸入する際に使う言葉らしいです。 ここではわかりやすくするため「申請」と表記しました。 ちなみに、死んでしまった「動かない標本」は輸入禁止の対象外です。誰でも国内に持ち込めます。 でも最近は「動く標本」もだいぶ出回っているようですね。 また、この申請記の後編は未定です。何しろ農林省から電話が来ないことには続きが書けません。 では、いつになるかわからない後編でまたお会いしましょう。 E-mail:iron@kuwahouse.com ¶PS その後、たびたび審査経過の問い合わせをしていますが、YESともNOともとれない返事ばかりでした。 が、1999年1月22日の問い合わせでは「もうすぐ解禁されそうだ」と初めて「解禁」という言葉が聞けました。 正式に解禁が決定したら当ページの他、各くわがた関係掲示板でご報告いたします。 |