檜枝岐 02年06月28日





檜枝岐に行ってはいけない(BE KUWA 3号 2002/06/28)


たとえば「釣り」にハマっている人を「釣りバカ」と形容するように、クワガタにハマっている人を我々の間では「くわ馬鹿」と呼んでいる。他のバカ者たちと同様、一度「くわ馬鹿」になってしまうと、なかなかあと戻りができない。採集に血道を上げ、飼育に嬉々として、標本にウットリする。この域に達すると家族崩壊を招くおそれもあるらしい。したがって今後とも平穏無事な生活を守りたいのなら、日本で最も「くわ馬鹿」度が増すポイントの一つである檜枝岐には決して行ってはならない。

ところが2001年夏のある日、むし社のT編集員から檜枝岐採集に関する記事依頼があった。しかし、自分のような若輩者にはやや荷が重すぎると感じたので、丁重にお断りしようと思った。が、次にT編集員の口から出た
「そのために檜枝岐に取材採集に行きませんか?」
の一言で、あっさり釣られてしまう「くわ馬鹿」な私だった。(笑)

「親子で気軽に檜枝岐採集、がコンセプトです」とT編集員。そう、檜枝岐村のたった一村だけでも採れるとされるクワガタムシは十数種。一般的な夏場の採集で我々を悩ます蚊やスズメバチもほとんどいない。ヘビやクマが出ないということはないが、ヤブの中に分け入ったり、クルマ通りのない林道に行かなければ遭遇することもほとんどない。そう、親子で気軽に採集を楽しむにはもってこいの場所なのだ。

さて、前置きはいい加減にして春季採集からご紹介することにしよう。


【春】

05月の大型連休の頃には、国道352号の冬季閉鎖が一部解除され、尾瀬口である御池付近までクルマで通行できるようになる。御池から先はその年の残雪状況により大きく異なるが、05月下旬頃までには新潟県境付近まで通行可能なようだ。

檜枝岐村における春季採集と言えば、もちろんコルリクワガタの新芽採集である。御池から先の国道352号沿いや、有名な広沢林道沿いなど、ブナの幼木の新芽がほころび始める頃、コルリクワガタを多数見つけることができる。

ちなみに、ブナの新芽がこんな状態になっているときがベストシーズンである。もちろんその他の木にもつくことはあるが、数量的にはブナが圧倒的であり見つけやすい。

コルリペア

コルリペア

陽光が当たり、気温が上昇し始めると活発に枝先を動き回る♂個体が見られる。

目が次第に慣れてくると、新芽に頭を突っ込みお尻だけ覗いている個体も見つかるようになる。この場合、♂個体のさらに奥に♀個体が入り込んでいることが多い。

コルリクワガタの新芽採集は最適期なら1時間に100頭以上採れても不思議ではないが、なにしろその日の天気に大きく左右される。雨天だと全く採れないということもないが期待は薄だ。また1本のブナの幼木のベストシーズンは1週間と続かないので、その年の最適期を見極めるのも少し難しい。ちなみに今年の最適期は05中旬頃プラスマイナス1週間と筆者はにらんでいる。(ただし予想が外れても一切責任を負うものではない)

たとえば、半日で300頭以上も採集できるようなコルリ超乱舞状態に出くわすと、その後まぶたを閉じてもコルリが舞い飛ぶ幻覚が現れるほどコルリ採集は楽しい、、、いやもとい、恐ろしい。春季のコルリ新芽採集のために檜枝岐に行ってはいけない。


【夏】

夏の採集のメインは灯火採集であろう。コルリのシーズンが終わり、雪の少ない年では05月後半、平年ならば06月初旬にはミヤマクワガタが発生し始める。続いて06月後半にはヒメオオクワガタやアカアシクワガタもヤナギの木にポツポツ付き始める。が、この時期の夜間の気温はクワガタムシが飛ぶにはまだ低めであり、灯火採集にはあまり向かないようだ。

本格的に灯火採集が楽しめるのは07月になってからだろう。月齢の適期(新月の前後)に気温がある程度(約20℃)以上あればそれなりの採集果が得られる。

さて、灯火採集といっても大きく二通りに分けられる。街灯や自販機などを見廻る外灯採集と、自ら発電機などで水銀灯を灯す灯火採集である。前者は発電機などの先行投資も必要なく気軽に始められる利点があるが、競合者多数の場合は採集果の確保がやや困難である。逆に後者は競合者とのトラブルの可能性こそ少ないが、発電機・水銀灯の入手、設営場所の確保等が面倒である。

一般的には外灯廻りからスタートして、ある程度慣れてきたら自前灯火の設営、というパターンがポピュラーのようだ。

ただ、5〜6年前まではほとんど見かけなかった灯火採集者も、近年では非常に増加しており、その分トラブルも増えているらしい。実際、ゴミを捨てていく、蛾等の後片づけをしない、などの傍若無人な採集者が増えたために、周辺村民の方々の感情は著しく悪化しているようである。さらには灯火採集者同士の場所取りに関するトラブルに加え、自販機のコンセントを抜いてまで自前の水銀灯を点ける、というようなもはや犯罪と呼べる採集者が出るに至り、それまで好意的に土地を貸して下さっていた方々の翻意は当分望めそうもない。使い古された言い方だが、まさに自分の首を絞めている状態だ。自前灯火設営の際には、必ず土地所有者または管理者に許可を得なければならないことは言うまでもない。

また、外灯廻りの場合も、クルマの急発進・急停車・エンジン音、庭先・軒先などの私有地への無断立ち入り、家屋への懐中電灯の照射、等々は厳に慎むべきである。

これらの配慮を十分踏まえた上で、さて灯火採集を実際に楽しむわけだが、とりわけ読者諸氏に最も興味があるであろうオオクワガタを中心にご紹介しよう。

オオクワガタ狙いの外灯廻りのポイントはズバリ国道352号沿いである。舘岩村から檜枝岐村に至る国道沿いの外灯、自販機はどこで拾えてもおかしくない。ただ、オオクワガタが比較的よく飛んでくる外灯とそうでない外灯があるのは事実である。光源も明るければいい、というものでもなく、もちろん周りの地形・建物にも左右される。多少光源が暗めでも、その光を反射するスクリーンの代わりとなるような壁があれば有望なポイントになりうる、というのは一つのヒントになるだろうか。あるいは、外灯の前で陣取っている人が多ければ、その場所も有望ポイントということになるだろう。

まあ、どの外灯が有望か、その辺は経験を積んで腕を磨いていただきたい、という表現にとどめておこう。ちなみに、この写真は実際にオオクワガタが飛んできたことのある外灯である。

オオ外灯

オオ外灯

ではどれぐらいの確率でオオクワガタは飛んでくるのだろうか。
気象条件は前にも述べたが、月の出ていない、気温20℃以上の晩が一つの目安となる。もちろん月が出ていても、気温が20℃以下でも飛んでこないということはないが、確率的には低くなる。

そして私の経験ではアカアシ・ミヤマ・ノコギリ・コなどのクワガタが50〜100頭飛んできたら、その中に1頭程度オオクワガタが混じる、程度の確率だ。また♂♀の比率は、かなり♀のほうが多く、オオクワガタの場合では1:9ないし2:8ぐらいの割合だろうか。

次に、オオクワガタの飛来時間や場所だが、これは他のクワガタと同様で日没後から午後10時頃までがピークのようだ。ただし、時間によって飛んでくるというのではなく、単に気温がこの時刻ぐらいまでならまだ高いからという簡単な理由だろう。 したがってもちろん気温さえ高ければ深夜12時過ぎでも飛来した実績はある。また季節的には、数こそ少ないものの06月上旬から09月下旬まで採集実績はある。

場所的には、光源のすぐ近くに落下すれば見つけるのも簡単だが、場合によっては光源から3〜40mも離れた地点に落ちていることもある。広い範囲までくまなく探すことが好結果につながると言ってよい。

さらにもう一つ、今まで誰も言わなかった(と筆者が勝手に思っているだけかもしれないが)とっておきの情報。それは小雨。

私が灯火採集で拾ったオオクワガタのうち、実に半分以上の個体が小雨降る中、もしくはその直前直後だったという事実。もちろん土砂降りでは全くダメだが、雨が降ることによって夜間の気温低下が抑えられる、というのが一番の理由だと思われる。雨が多少降っていても諦めてはいけない。むしろチャンスなのだ。

そんなこんなでこのようにオオクワガタを一度でも拾ってしまうと、その前後の記憶が飛ぶほどの快感が得られるという。このため、灯火採集のためだけに檜枝岐まで「日帰り」ならぬ「夜帰り」をしてしまう人や、1週間も現地に泊まり込んで10頭以上もオオクワガタを拾ってしまう人たちが私の周りにもいる。

こんな素晴らしい、、、いやもとい、異常な生活を送りたくなければ、夏季のオオクワガタ灯火採集のために檜枝岐に行ってはいけない。

オオ♂

オオ♂

ミヤマ♂

ミヤマ♂



【秋】

灯火採集も一段落し、秋の声を聞くようになるとヒメオオクワガタのヤナギ採集の好期となる。澄んだ青い秋の大空と緑の木々をバックに枝先にしがみつく黒い点。

筆者の主観を強くにじませるようで大変恐縮だが、当地でのクワガタ採集はどれもたしかに楽しいが、とりわけヒメオオの採集はまさに至福の一語に尽きるのだ。

ヒメオオクワガタは前述のように06月頃にはすでに発生し始めるが、そのピークは08月下旬から09月中旬にかけてである。場所は、やはり有名なのは広沢林道だろうか。国道352号を御池から新潟(小出)方面へ7kmほど下った右側に林道入口がある。標高1000m付近まで上がればそこはヒメオオのパラダイスだ。

夜間でも採れないことはないが、ここではすべてのクワガタが昼間から堂々活動しているので、あえて夜に出撃する必要はない。

採集方法は至って簡単、捕虫網を下にそえるだけである。ヒメオオやアカアシは木の人為的な揺れに敏感で、少しでもこれを感知するとさっさと自分から網の中に落ちてくれる。これに対し、同林道で採れるミヤマ、ノコギリ、コなどは多少の揺れでも落ちないことが多い。(同様の方法で、ほかにはスジ、カブトも採れる)

里山では一般的に木を蹴って採集する方法もあるが、林道沿いのヤナギの下は雑草や落ち葉が多量に積み重なっており、捕虫網なしの採集はまず困難である。また網の長さも1〜2m程度では、ま、ないよりはマシといったところか。

筆者らも6m以上の網を使用しているが、それでもなお届かない個体に歯ぎしりすることしばしである。ちなみに、さきにご紹介?したT編集員の執念はものすごい。網が届かないと見るや、落下地点の見当をつけ、蹴る。バラバラッと落ちてきた個体を地面に這いつくばって草の根分けてもかき出してしまう。

そこまでの情熱はない私が、遠くから、
「何がTさんにそこまでさせるんですかぁ〜。」
と尋ねると、
「そこにクワガタがいるからですぅー。」
と期待通りの返事を返してくれる。

ただし、これは「来るモノ拒まず、去るモノ逃がさず」という座右の銘を持つT氏ならではの芸当であって、一般にはオススメできない。(笑)

さて、そんな魅力的な広沢林道だが、唯一の欠点はなにしろ競合者が多いということか。5〜6年前なら週末でさえ2〜3組しかすれ違わなかったのに、いまや平日でも他の採集者とバッティングしない日はない。以前より個体数が減っている、という声も耳にするが、多少は減っていたとしても、実際は採集者の増加による一人分の分け前の減少という具合に捉えている。

その証拠に、広沢以外のあまり人が入っていなそうな林道を探すと、今でも鈴なりの木がいくつもあるし、広沢でさえ台風直後、すなわち数日間誰も入らなかったであろう直後は、ヒメオオだらけである。(笑)ただし、危険箇所ではガケ崩れの心配があるので、これもオススメできないが。

いずれにせよヒメオオ採集を一度体験すると、それまでヒメオオをゴミムシ扱いしていた人でさえ、ヒメオオの醍醐味を満喫するために奥さんの反感を承知で強引に家族旅行を檜枝岐に変更してしまうほどなのだ。

こんな醍醐味を満喫、、、いやもとい、家庭内不和を蔓延させたくなければ、秋季のヒメオオヤナギ採集のために檜枝岐に行ってはいけない。

ヒメオオクワガタ♂

ヒメオオクワガタ♂



【冬】

10月中旬のヒメオオ採集期が過ぎると、残された採集は材採のみである。オオクワガタの材採では、木を1本当てれば何十頭の成虫・幼虫が出ることもあるが、その1本を探すために、何百万本もの木が生えている原生林をさまようにはクマ・ヘビ・ジバチの危険を考慮すると、一般的にはもちろん、「親子でお気軽採集」には絶対オススメできない。

もっとも当地は日本でも有数の豪雪地帯なので、11月半ばを過ぎると山に近づくことすら困難になる。そんなわけで材採としては、道路沿いの小枝や倒木を割ってルリやツヤハダなどの小型種を割り出すのが無難だが、だいたいルリやツヤハダ狙いで檜枝岐に出かける人は、もはや死んでも治らないほどの「くわ馬鹿」であろうから、割愛させていただく。(笑)

画像は冬の広沢林道である。

冬の檜枝岐

冬の檜枝岐

雪の上にクルマの轍はなく、自分の足跡とクマやシカなど動物たちの足跡だけで、風の音以外は静寂が支配している。

こんな大自然の偉大さを実感、、、いやもとい、こんな山奥で遭難したくなければ、冬季の材割り採集のために檜枝岐に行ってはいけない。




酒井 正幸さん
もう20年以上前の話なんですね。歳を取るわけだ(^^; 当時、あ〇あ〇とかいうオッサンに騙されて、いまだ足抜けのできないジジイがひとりいますけど(^^;
あ○あ○って、何者なんですか?^^; 〆てあげましょう。^^;
酒井 正幸さん
ぜひ〆て、タガメの餌にしてやってください(^^;
承知しました。^^;

2023.03.12