みなさんご承知の通り、くわがたむしに限らず飛行能力を持つほとんどの昆虫は光に集まってくる。
オオクワガタでさえ例外ではない。 しかし、ここでちょっと疑問に思うことはないだろうか? オオクワガタは光に対して極端に敏感だ。飼育部屋の明かりをつけようものならそそくさと隠れてしまう。 こんな性質を持ったオオクワガタがなぜ光に集まってくるのだろう。 この疑問を解くべく、私は以下のように考えてみた。 オオクワガタには飛行能力が十分にある羽がある。 当然、彼らの移動手段としては「歩行」より数十倍、時には数百倍も優れているだろう。 この能力を宝の持ち腐れにする理由はない。移動したいときには飛行行動に移ることもあるはずだ。 ところがオオクワガタは前述の通り明るいところを好まない。飛行するのはすなわち夜間ということになる。 しかし、飛行機やヘリコプターならともかく昆虫の彼らが夜間飛行においてそれほど操縦巧みとは思えない。 自分が正しく目的の方向に飛んでいるのか、あるいは水平に飛んでいるのか、はたまた真っ直ぐ飛べているのか、 これを判断するには何か灯台のような目印が必要なはずである。 この灯台が自然界では「月」だ。 地球上では人類が現れる前の光は火事を除き太陽、月、星などの無限遠に近いところからの平行光だけであった。 平行光は観測者が移動しても光源の方角が移動しない。 夜、高速道路や新幹線に乗った時を想像してみよう。直進している時、地上の景色は次々に流れ去るが 月や星はまるで観察者と一緒に同じ方向に動いているかのように見えるはずである。言い換えれば、観察者が視線を 動かさない限り、月はいつも一定の方向に見えているわけだ。 くわがたもこの原理を利用して自分の軌道を修正しながら飛行しているのだと思われる。 しかし、現在では人類の出現により、平行ではない人工の点源光が地上に氾濫している。 当然、オオクワガタには点源光と平行光の区別がつかない。 町の街灯を平行光と見間違えたオオクワガタは、直進するためにこの光を自分の視野の一点に固定しようと試みる。 ところが、点源光を視野の一定方向に固定して飛行するためには 1 その光源に向かって飛ぶ。 2 その光源を中心とした円周上を飛ぶ の二通りしかない。 これが多くの虫が螺旋(らせん)を描きながら光に飛んでくる理由だと筆者は考える。 明かりに向かって飛行し、地上に落ちたオオクワガタは夢から覚めたように慌てて暗がりの方へ歩いていく。 オオクワガタより昼行性の強いノコギリやミヤマの多くは、飛んできた後もしばらく明かりの下でじっとしていることが多いが、 ほとんどのオオクワガタはすぐに逃げて行くようだ。 こう考えると灯火採集には月夜の晩よりも闇夜が圧倒的に有利だという結論にもなる。 「月=灯台」説。いかがであろうか。 |